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大阪地方裁判所 昭和38年(ワ)1222号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕<証拠>を総合すると、本件山林は大和時代中期に築造された周壕を有する前方後円墳であつて、皇室関係の御陵と考えられるものであることが認められ、他にこれをくつがえすに足りる証拠はない。ここで、古墳に対する法令上の規制をみると、古墳は、それが歴史上又は学術上価値が高い場合には、文化財保護法第二条によつて「文化財」とされ、それが重要なものである場合には、同法第六九条第一項によつて、文化財保護委員会により「史跡」に指定され、又は、同法第七〇条第一項によつて、緊急の必要があるときは、都道府県の教育委員会によりその旨の仮指定がなされるときがあり、右指定又は仮指定がなされた古墳については、同法第八〇条によつて、原則としてその現状変更が禁止されるのであり、また古墳が埋蔵物である場合に、当該地域が「古墳その他埋蔵文化財を包蔵する土地として周知されている土地」に該当するときには、同法第五七条の二によつて、その現状変更を三〇日前に文化財保護委員会に届け出なければならず、同委員会はその際、現状変更に対して必要な事項を指示することができるのである。しかし古墳が私有地にある場合、その土地の売買についてはなんらこれを規制する法令はない。そこで、本件古墳に対する取扱をみると、前掲証拠によれば、昭和三五、六年頃、大阪府教育委員会は、本件古墳が重要なものであると考えて、文化財保護委員会に対し、史跡として指定するよう申請していたが、本件売買契約がなされた昭和三六年一二月当時においては、未だ史跡としての指定又は仮指定のいずれもなされていなかつたことが明らかである。次に、同法第五七条の二の「古墳その他の埋蔵文化財を包蔵する土地として周知されている土地」とは、当該地域の住民の大多数がその旨を認識している土地をいうのであつて、ごく少数の専門家だけが、そのことを知つている土地では足りないと解すべきところ、本件山林一帯が、「古墳その他の埋蔵文化財を包蔵する土地として周知されている土地」であるとの点については、……たやすく信用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

そうだとすれば、本件山林を宅地造成するについては、文化財保護法上の制約は、一応、存在しないことになるけれども、同法第八四条によれば、土地の所有者が古墳その他の遺跡と認められるものを発見したときは、その現状を変更することなく、文化財保護委員会にその旨を届け出なければならず、同委員会はこれに対して、遺跡の保護上必要な事項を指示することができるのであり、また、前記のとおり都道府県の教育委員会は、緊急の必要がある場合はいつでも史跡の仮指定を行なうことができ、その場合には、現状変更が原則として制限されることになるのであり、本件山林に埋蔵された古墳はその重要性からして、これを宅地に造成する場合には、大阪府教育委員会により、右のような制約を課される可能性が極めて多いと考えられるし、また、そのような古墳を買い受けようとする者も少いと考えられるので、これを転売することも少なからざる困難が伴うものであることは、すでに判示したところから明らかである。従つて、本件山林は他に用途もないので、財産的には殆んど価値のないものと認めざるを得ない。

そこで被告大沢の故意過失について判断するのに、まず、被告大沢が、原告に対し、本件山林を宅地に造成すれば、高価に売却できる旨を申し向け、その買受方を勧めたことは前記認定のとおりであるが、その際、同被告において、本件山林が前記の如き古墳であつて宅地造成の困難なものであることを知つていたと認めるに足りる証拠はない。更に宅地建物取引業者が、不動産売買の仲介をなすに当つては、その委託の趣旨に則り、当事者双方がその契約の目的を達し得るよう配慮し、事前に当該物件に関して契約の目的を達し得ないような瑕疵の有無等を調査し、委託者に対し不測の損害を生ぜしめることのないよう誠実にその業務を遂行すべき一般的な業務上の注意義務があることは、民法第六五六条、第六四四条、宅地建物取引業法第一三条、第一八条第一号の規定の趣旨から明らかであるが、宅地建物取引業者は、免許制であるとはいいながら、特別な資格、能力がなければこれを営むことができないものではないことは、同法第二条、第三条によつて明らかであり、宅地建物取引業者に対して、高度の専門的知識や鑑定能力を望むことは、とうてい無理であつて、かような業者に対して許される業務上の注意義務もおのずから限界があるものと解すべきものである。従つて、その注意義務について、目的不動産の隠れた瑕疵などに関する専門家的調査や鑑定能力を要求すべきではないと解すべきである。しかして、本件山林の昭和四〇年五月二六日当時の写真であることに争いのない検甲第一号証によれば、羽曳野市には、清寧天皇陵、応神天皇陵、日本武尊白鳥陵等、有名な大規模の古墳が散在していることは明らかであるが、一方、<証拠>を総合すれば、本件山林は、約三七〇〇平方米(約一一〇〇坪)程度の広さを持つ雑木の密生した小高い丘の如き観を呈し、その周囲の半分は小さい池(周壕)によつて取り囲まれ、残りの半分は、以前は本件山林を取り巻いていた周壕の一部であつたものが、かなり以前に埋め立てられて、すでに田畑と化し、本件山林の周辺はすべて田畑であつて、近くに人家も点在し、附近には舗装道路も通じており、本件山林は、規模も大きく、かつ、周壕もほぼ完全な形で残存している前記各古墳に比し、規模も小さく、周壕も半分しか残つておらず、古墳であることの標識もなく、その形状は前記のとおり小高い丘の如き観を呈していて、全体としてごくありふれた自然な地形と認められるのである。右認定の事実によれば、本件山林が古墳を包蔵していることは専門家でないかぎり、本件山林を目して、古墳ではないかとの疑いを抱くことは困難な地形であると認められるから、専門家でない被告大沢が、本件山林を古墳であると見抜けず、そのため大阪府教育委員会に対して、本件山林が古墳であるか否かの確認の措置をとらなかつたとしても、業務上の注意義務の範囲を超えたものとして、それはやむを得なかつたといわざるを得ず、従つて被告大沢には、業務上の注意義務を怠つた過失があるということはできない。(喜多勝 佐藤英一 安藤正博)

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